猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

破滅の王

 

 全ての生きとし生けるものがずっと、憎かった。
 この国は、種族差別の上に成り立つ。龍の血を引いた王族が政を取り仕切り、ヒトが仕える。半獣やドワーフは、ヒト族の下で奴隷として生きることでしか、許されない。

 金脈採掘の過酷な労働環境のもと、家族や同胞が生き絶えていく。
 それでも、ヒト族は奴畜(ドチク)という扱いで、いいように扱われ、家畜のように倒れたら次の奴畜が放たれる。

 そんな時に、金脈の中に眠っていた青真珠に目を奪われた。
 金ではないから、と。ヒト族の監督は目もくれ図、蹴飛ばして――転がった真珠が、俺の足元にわざわざやってくる。

〈ハロー?〉

 青真珠がそう言っている気がした。

〈お前は、俺のことを理解できるんだろ?〉

 そう軽薄な声が、脳裏に響く。
 知らないわけがない。ドワーフ族は、鉱脈の中で、眠る魔力を掘り起こしては、道具に埋め込むのだ。

 だが、ここでは鍛治ができるはずもない。

〈諦めるか?〉

 青真珠がせせら笑うのを尻目に、俺は――青真珠に手を伸ばして――飲み込んだ。
 青真珠は笑う。

〈いいぜ、愉快だ。お前のこと気に入ったよ〉

 手のひらに青真珠が覗かせては消える。

〈本来の錬成をすっ飛ばすんだ。20年待て。そうしたら、あんたの願いを全て叶えよう。あんたの体に定着するまで、な〉

 生きとしいけるものを、全て憎む。それだけのために残りの時間を生きる――。

 

 

 

 

 そのはずだんだったのだが――。
 一つの時代が終わって。
 龍人を王族とし、ヒト族が政を担うそんな時代が終わって――。

 俺は、戦乱の最中捨てられたヒトの乳児を抱いていた。

〈お前はこれで自由だ。とりあえず、この赤ん坊から血祭りにあげるのも一興かもしれんな〉

 青真珠が手のひらから覗く――その青真珠を、俺は乳児の唇に触れさせた。その子は反射的に、吸い付く。

〈バカ、貴様、何をやって――〉

 魔力で、母乳を流してやってくれ。それぐらい、造作ないだろ?
 ニッと俺は笑う。

 魔石は大概にして、嘘つきだ。
 20年も待たなくても、魔力は定着していた。
 それでも、どうでもよかったのだ。
 20年待てば、劫火で焼く。焼き尽くす、それだけを夢見てきたのに。

 一番憎んでいた、ヒト族の赤子なんて、捨てればいいものを。生後一人では生きられない存在だ。ヒト族なんて、こんなにも脆い。オトナになれば、あんなにも狡猾だが。

〈育てるのか?〉

 それもまた、面白いかもしれない。

〈バカだ、お前は。ドワーフの一族を迫害した一族を、しかも王族の――〉

 うるさい。
 とりあえず、お前はオシャブリでいろ。俺は小さく笑みながら、火が回る王都を後にして――。

 どこかの村で鍛冶屋でもするか、そんなことを思いながら。

 

 

 

 

 

※作者注記

奴畜(ドチク)という言葉は現在の日本語にはなく、あくまでこの世界の蔑称として見ていただけたらと。

ただし、調べてみると、農奴としての意味合いで、古典に出ているという表記もあり、インスピレーションで単純に書いて見たにしては、なかなか面白いなぁと個人的に。

 

参考web

ザイモツ【財物】とドチク【奴畜】 | 情報言語学研究室

公園の一風景

 

 チビちゃんと彼が、全力で遊んでいるのを見ながら、ふと少し寂しい気持ちになる。
 旦那さんと仲良しだね、とよく言われるけど――。
 チビちゃんが産まれる前は、彼と自然に手を繋いで歩いていた。
 ――結婚したら、手なんか繋がないよ。
 友達のその言葉が、なぜか胸をざわつかせる。
 そんなことを思っていると、彼が隣に座って――そっと手を握る。
「え?」
 チビちゃんは、いつのまにか蝶を追いかけていて。
「しばらく、できてなかったからね。迷惑?」
 私は首を横に振って――
「わたしも!」
 チビちゃんが、慌てて駆け寄ってきて。
 距離は縮めることは、こんなにも簡単だって、チビちゃんが教えてくれる。
 うん、だから遠慮しない。

 

 

 

 

第42回twitter300字SS参加作品

テーマ「遊ぶ」でした。

色々と考えていたんですけどね。

遊ばれた恋とか、遊戯とか、政治ゲームとか。

結局、こう言う形で落ち着いたのは、まぁ今日家族でサイクリングに行ったリアルの影響も近いですけど(笑)

ちなみに我が家は、手は繋がないけど、友達や相棒感覚が強いので。

あと、車の助手席を巡って、チビちゃん達にも譲らないとか――あ、余談はこのぐらいで。

 

今回も参加できたので、他の皆さんの作品も楽しみたいと思います。

ではでは。

 

新しい恋

 ウブな女の子でもないのにと思う。仕事に夢中で、気づいたらこの歳になっていた。最後に付き合っていたのは大学生の時で。その時は当たり前に手を握ってデートしていたのに、今じゃどうしていいか分からない。
 4つ年下の仲西君に好きと言われた。反射的に、頷いてしまった私は無責任だと思う。
「プライベートくらい、名前で呼んでもいいよね?」
 無邪気に彼は言う。
「さゆり」
 素直に言われて顔が熱い。どうやら、私の新しい恋はすでに始まっていたようで。

 


「あ、仲西先生と織田先生、付き合ってたの?」
「まぁね」
「いいなぁ、先生たち可愛いー」
 普通に話さないで。少しは隠して。生徒の前でやめて!

 

 

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今回もなんとか参加できましたー。次回はもう少し、テーマをひねって参加したいと思います。

 

血なんかかよってない

 人形と揶揄されたこともある。
 そもそも、ニンゲンとして扱われたこともない。
 味覚はない。感覚もデータ検知するが、君たちが言うような、触れ合いも温度も、感情すら人工物だ。そうプログラムされたから、その通りに判断する。ただ、それだけのこと――と息をつく。


「遠藤さん!」
 ただすれ違っただけで、彼女は無邪気に手を振ってくれる。あの子は、なんて笑顔で笑うんだろう。彼女の隣では、苦虫を潰したような顔で、こちらを睨む少年が一人。
 彼の反応が正当というものだ。
 俺は、君たちを監視しているというに――君ときたら、まるで頓着しない。

 その度にシステムが【エラーを検出】と警告してくれるのが、なんとも五月蝿かった。

 

 

 

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twitter300字SS

テーマ「人形」参加作品です。

 

拙作「限りなく水色に近い緋色」より。

本編で、遠藤さんをもっと書きたいのに書けなかったので、作者のエゴで、個人的に満足したのでした。

 

ニンギョウ王子

 許嫁たる王子が贈った人形を大切にしていた。
 もともと政略結婚以外の何ものでもない。

 王は、姫を嫁がせるつもりはなかった。
 そしてかの国は、同盟国として派兵を余儀なくされ――壁となって、潰えた。

 ――この人形があなたを守るだろう、ボクの代わりに。

 今なら、子どもの戯言だと分かる。
 そして、王は国を栄えさせる道具として、また姫を使うつもりだった。

(大丈夫)
 そう呟く。私が次に、あなたの元へ行くから。

 

 

 


 殿下の御身を守る為、魔術を使わせてくださいませ。

 婆やはそう言った。
 あの日から、姫のそばに人形として仕えている。深夜、光が届かない場所でだけ、魔術はほつれて――。

(生きる理由は、もう貴女しかない)

 

 

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twitter300字SS参加作品。

今回のテーマは「人形」でした。

タイトルそのまんま。当日にほぼ即興で書いたので、

内容もまた安直だったかも。

でも、また続きを書きたいと思うのでした。個人的に満足。

 

君との時間はおしまい

 気になる、って程度だったんだ、最初は。

 同じクラスが続き、当たり前のように話をしていた。壁を感じず気遣いをする必要が全くなくて。

 試しにさ、付き合ってみたら?
 無責任に誰かが言う。

 そんな失礼なこと言えるわけない。
 終わらせたくないって気持ちは強い。

 でも今までの強運もこれでおしまい。僕と彼女は離ればなれで。
 もうこの時間は終わってしま――

「佐島」

 彼女が声をかけてくれた。

「先生と生徒の関係もおしまいだから。そうしたら私、遠慮しないからね」
「え?」
「遠慮しないって言ったの。好きって、言った方がいい」
「先生、聞かれるって!」

 顔が熱いのは暖房のせいなんだ、きっと。

 

 

 

 

twitter300字SS参加作品、その2です。

騎士には王が必要で

 王子が連れ帰った貧民街の剣客に興味があった。
 先王崩御後、宰相が政を動かす。宰相は王子が何をしても興味ないという無礼な素振りで。

 仕えるべき王がいない現実が苦い。

 鬱憤を晴らしたかったのだ。
 手合わせを申し入れ――彼女はあっさりと承諾をする。
 近衛騎士と勝負をする気なのかと呆れたが――その数刻後、土を舐めさせられたのは私だった。


「まぁまぁだね」

 と彼女は言う。蝶が舞うような所作は見事で。

「あの子の害になるなら切り捨てようと思ったけど、あなたは違うのね」

 試されたのは、私と言うことか。

 と、それを見ていた王子が手を伸ばす。勿体無いと思いながら、私はその掌に触れた。
 仕えるべき王ならここにいる。

 

 

 

 

 

と言うことで、月に1回のお楽しみ。

Twitter300字SS、今回は「試す」でした。

しかし、自分で書いていながら、この子好きだわ。名前決めてないけど(え?
そして「試す」って、かなり難しかったけど、今回も。

以前書いた作品のキャラに最近なっているのは、余裕がないからか。

できれば完全新作で挑みたいところです。