猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

#Twitter300字ss

ずっと夢見てた

大切なことは全部諦めてきた。働け。そして稼げ。そんな時代にどうして恋を語ることができようか。老いてしまったことなら知っている。だが時々どうしてか、初恋をしていたあの時に何度も戻る。 この手は、シワクチャなのに。 あの人は、あの時のままで微笑…

うたた寝

宿主が起きていれば、こちらは眠る。だがずっと寝ている訳ではないので、朦朧とした意識の中で、宿主が泣いているのはよく見ていた。心ない言葉が、宿主を突き刺す。その度に隠れて泣くのが彼女だった。 何回か、宿主の意識を奪って、妾が灼いてやった。人を…

この時間だけ演じれば

社交界なんて興味もないが、王家が主催するパーティーとなれば参加しない訳にもいかない。どうせ私みたいな女に声をかける紳士なんているはずが――。「僕と一曲踊ってくれないかな?」 声をかけてきたのは王子で。彼曰く、色目を使う淑女に食傷気味らしい。私…

旅の果の景色を

旅人が集う交易街の人の多さに驚く君に苦笑する。私達は商人の装いだ。誰が第一王子と、その近衛騎士と思うだろうか。君は、町々の状況を知りたがる。人口、税収、交易からの経済実態。さらに君は交易の中からの、住人や商人、旅人達のリアルな情報を望んだ…

あなたにあいたい

運命の出会いなんてない。私たちは漫然と日々の生活をこなす。昨日から今日、明日へ淡々とつながる。好きな人ができたら、それはそれでいいけれど、きっとそんな絵に描いたようなトキメキなんかやってこない。無感動のまま、私たちは頁の始まりから、頁の終…

君が隣りにいることについて

居心地が良くて。なんだか言葉を交わすだけで、染みこんで。当たり前に言葉を掛け合って。これが気が合うということなんだろうか。 君が言葉をかけてくれること、それが嬉しくて。もっと言葉が欲しくなる。その感情の意味を考えたこともなかった。 ――君が、…

生命の水

水が滴る。滴が落ちる。その瞬間を正視できたのも、ほんの刹那で。直視すらできない、激痛が俺を襲った。「意識がまだあるか?」 白衣の男は、興味深そうにデータの変化を追いかける。 体が内側から灼け、激痛が体の中を駆け巡る。その様を尻目に、男はさら…

ハーフタイム

先輩のシュートが、ネットを揺らす。ホイッスルがけたましく鳴った。バスケットボールが、バウンドするとともに歓声が上がる。 ハーフタイムに入って、みんなが駆け寄る。マネージャーの子達が、スポーツドリンクを手渡そうとするが、先輩は汗を拭きながら、…

指が音を求めるけれど

かつてロックシーンを彩っていた時期もあったが、すっかり音楽業界に嫌気がさし、今や高校教師に返り咲いている。 あれほど嫌いになった音楽なのに、残業していると、ギターを触りたくなる時がある。音楽室の防音設備なら聞かれることもない。聞かれたところ…

乱舞

モニターから見ていた世界が全てだった。ラボでは全てが管理される。あてがわれた部屋には窓すらなくて。 繰り返される実験。私の手のひらの上で、煌々と燃える火炎。上手に壊したら、お父さんが喜んでくれた。 ある日――実験で一緒だった子が、私の手を引い…

慟哭

あの人はきっと私が死んでも涙を流さない。 感情を流すには、私たちは長く生きすぎた。エルフと龍人、ともに長命の種だ。エルフは自然と共にあり、龍人は本能のままに血を求める。 惹かれたのは――きっとお互いの同情から。 彼は失ってばかりで。そして私は奪…

そんな薬があれば

シャープペンシルで文字を綴りながら、ひなたはチラッと爽を見やる。「人見知りをしない薬があればいいのにね」 そうひなたは言う。一部の人に対して素直になれるのに、それ以外では言葉にならない。その一方で、目の前の爽にならこうも素直になれる。 と爽…

空が欲しい

頬杖をついて、僕はぼんやりと城下を見やる。目を盗んでは抜け出して、束の間の自由を楽しんだ日々。それすら籠の中の鳥だった、と今なら思う。 はるか彼方、地平線。その向こう側まで、行けたら――。 「なに、考えこんでるの?」 さりげなく彼女は紅茶を淹れ…

ニンギョウ王子

許嫁たる王子が贈った人形を大切にしていた。 もともと政略結婚以外の何ものでもない。 王は、姫を嫁がせるつもりはなかった。 そしてかの国は、同盟国として派兵を余儀なくされ――壁となって、潰えた。 ――この人形があなたを守るだろう、ボクの代わりに。 今…

血なんかかよってない

人形と揶揄されたこともある。 そもそも、ニンゲンとして扱われたこともない。 味覚はない。感覚もデータ検知するが、君たちが言うような、触れ合いも温度も、感情すら人工物だ。そうプログラムされたから、その通りに判断する。ただ、それだけのこと――と息…

天空都市

まっしろい。 天空都市を龍人が建立したという伝説のみが残る。 雲海に足を踏み込んだ時点で、コンパスは役に立たなかった。 皇位継承権ならくれてやると言っているのに、愚弟は納得しない。 そこまで思いながら、今さら我に返る。国を追われた私に何が残る…

未来を彩る飾り付けを

腫れ物を触るように扱われていた。傀儡の王子だ、情勢が変われば暗殺される。 だから――命を晒すことも厭わずに、市井に出た。案の定、賊が金目当てに取り囲む。きっと、パンをあげた子が僕を売ったのだ。 (のぞむところだ) と目を閉じると――鋼が衝突する音…

命の氷

男は氷をノミで削るという作業を繰り返す。雪の女王からようやく下賜された【命の氷】だ。 匠であることの証。芸術をこよなく愛する雪の女王が、本当に認めた匠にしか譲らない。男はその腕で、氷の宮殿を作り上げた。 女王はお喜びだ、と文官はご丁寧に報告…

かき氷の記憶

幼馴染と言うには、語弊がある。なんとなく、駄菓子屋の孫、それぐらいの認識しかない。クラスは一緒になったことがない、その程度の関係だった。 この駄菓子屋は、夏になるとかき氷を始める。かき氷を彼女と並んで一食べた記憶だけが鮮明で。 その駄菓子屋…

火焔の少女

研究サンプルとして生まれた私の能力は発火能力(パイロキネシス)だった。当時の私は、力の制御ができず感情的になると、すぐに炎が燃え上がった。 だから決めたのだ、怒らない、泣かない、喜ばないと。 だって私が、貴方を焼いてしまったのだから。 「まだ…

最後の吸血鬼

それは汚れをなにひとつ許さない、絹のドレスを纏った少女の肖像画だった。表情は硬く、笑むことなく、むしろ瞳孔は見開かれて。愛らしさと恐れが入り混じって、違和感しかなく、私は思わす立ち止まった。 時計が鐘を打ち鳴らし、時刻を告げる。 周りには誰…

スケッチブック・無自覚・ラブレター

スケッチブックに想いのままにクレパスで彩る。何を描こうなんて、特に考えていない。時には猫だったり、甲冑の騎士だったり、男の子だったりする。いつも、一人でいる時は絵本に想いを馳せていた。「ふーん」 と覗き込んだトモダチが言う。心の準備なく、自…

#Twitter300字ss 「宴」

淡い光の下で、初めて境界線は崩れ落ちる。月は満たされ、儚い灯りに照らされて、この世界は初めて孤独でないことを知る。 笛が物悲しく、泣く。その音色に身を任せながら、彼女は盃に手を取り小さく舞うのだ。「悪くはないな、この国の儀式は」 彼女は僕の…