猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

告白ロールプレイング

 


「あのさ、告白のロールプレイングに付き合ってくれない?」
「は?」

 家飲みをしながら、同僚はそんなことを言ってくる。

「告白って、どう言っていいか正直わからないんだよね」

 こいつは……。入社の時から私が気になっている事を知っていて言ってるのか?

「女子はどんな風に言ってもらったら嬉しい?」
「そんなの人によるに決まってるじゃない」
「じゃあ、槙本は?」
「え……」

 言えるわけがない。何度、目の前の鈍感野郎にその言葉を投げようと思っているんだ?

「好きだよ」

 同僚は耳元で囁く。背中がぞくっとする。言われたかった言葉なのに、と思う。少しおしゃれをしたり、ご飯に誘ったり、休日を一緒に過ごしたり、買い物に出たり。それなのにコイツは少しも気づきもしない。

「付き合ってください」

 同僚は続ける。

「でも、付き合ってくださいって、あんまり好きじゃないんだよなぁ」

 とハイボールに口をつけて。

「槙本ならどう言う?」
「す……す」
「え?」
「ずっと、好きだったんだよ、バカヤロー!」

 煽られ、衝動に任せて言ってしまって――固まる。

 こ、これはロールプレイングだ。何を言ってしまってるの? アルコールの酔いとはまるっきり別の意味の熱さが体中を駆け巡る。

「うん、俺も」

 とニッコリ同僚は笑――う?

「槙本、好きだよ」

 ズルイ笑みを浮かべながら。こいつはいつもそうだ。飄々として。でも仕事で失敗した私に、さり気なく手を差し伸べてくれて。
 ズルイ、と思う。

「女子に誘導尋問で言わせるなんてサイテーだ」
「散々言っても気付かない槙本が悪いんだけど?」
「な、お前、そんな事を一言も――」

 と反論する暇もなく、彼は私を抱きしめる。バカ――と、こんな時でも悪態を吐く私は、本当に素直じゃない。

「槙本のバカは、好きと同義語だよね」
「そんなわけあるか」
「じゃあ、好きって言ってよ」

 私がどれだけ好きなのか、言葉なんかで伝わるか。
 だから私は、今まで伝えたくて伝えたくて仕方がなかった言葉を、唇に全てこめて――。

 

 

ふと、「告白」で書きたくなって、タラリンと書いてみました。