二年を跨ぐ
寒くて、手がかじかむ。こんなことなら手袋を持って来れば良かった、と思う。でも、それを通り越すぐらい、みんなと一緒の新年は暖かかった。
大晦日の夜からお参りする事を「二年参り」という。言葉自身は聞いたことがあったが、いざこうやって自分がしていると思うと、ドキドキが止まらない。
何のことはない。やることと言ったら、新年を跨ぐ、その数分だけの為に夜更かしをする。妙にみんな浮かれた顔をして、知らない人と一緒につられてしまう。
なんて単純なんだろう、と思いながら。
と、隣にいつもいてくれる彼が、手を引き寄せて自分のコートのポケットへその手を入れた、一瞬。刹那、息をついたほんの少しと、瞬きするような間に。
花火が打ち上がり、太鼓を打ち鳴らす。
「happy new year!」
誰となく、連呼して。
一年をまたいで、次の一年へ。時計が刻むのはほんの数分。それを二年参りと言うのは、なんて大袈裟何だろうと思っていたけど――。
「ひなた」
名前を囁かれて、耳が熱い。この喧騒の中で、しっかりと彼の声が聞こえていた。
「今年もよろしく」
「こ、こちらこそ、爽君……」
「あ、先輩、二人の世界入ってるー」
割り込む声が、この場所では二人だけでいられないのは当然で。
「入ってないし」
「水原君って、こんなに積極的だったんだね、へぇ」
「意味わからないし」
「宗方さんが顔を真っ赤にしているのは、甘酒?」
「姉さん、ひなたに絡むな」
「そろそろ、俺もひなちゃんと仲良くなる時間もらおうかな」
「涼太、あるわけないだろ?」
どんなに言われても、コートの中の手は離れなくて。
今年も良い一年でありますように、とはなんて強欲なんだろう。みんなが一緒で、こんなにも幸せなのに、さらに幸せを望むだなんて。きっと、神様も呆れてる。
でも――。
「せーの!」
と声が上がって
「あけまして、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「あけおめっ!」
「桑島、だからお前は日本語を正しく――」
「はぴいやー!」
「だから!」
魔法の言葉のように重なって。
神様に呆れられても。
この時間が大切なんです、神様。強欲と思われても、欲張りと思われても。
ひなたは弾けるように、笑いが止まらない。
それはみんなも一緒で。
それでもその手を離さない――。
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最近、ブログの使い方がSSの書き置き場になってますが、
改めまして、あけましておめでとうございます。
「限りなく水色に近い緋色」より、ひなた、爽、ゆかり、茜、彩子、涼太でお送りしました。
書いておきたかったので、書けて幸せ。本編はまだ、ここまで距離が近くないひなたですが、その手を離さないぐらい積極的な日向は、もう少し先でしょうか。
何はともあれ、このブログ共々、今年もよろしくお願いいたします!