猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

君に告げたら終わり

 実田梢は臆病だ。こんなに臆病だと思わなかった。同じクラスになって三ヶ月。梢が気になりだしてから、4年3ヶ月もたってしまった。

 本が好きな相模君は、暇があれば本を読んでいた。相模君は人付き合いが悪い。愛想もない。でも梢は知っている。彼は、友達がいないんじゃない。友達を作る余裕がない。

 保育園に弟と妹を迎えに行く。夕食の準備をする。

 中学生の頃から、彼は嫌な顔せずそれをしてきた。

 偶然見かけて、それが目から離れず、今まで来ている。弟と妹に見せる笑顔と、学校で見せる無表情の差があまりにありすぎた。

 そんな相模君が、雨で立ち往生をしている。

 私は傘がある。彼は傘がない。

 でも何か言ったら、この恋は終わってしまう。

 その実感はあった。

 でも、何にもしなければ――ずっと、このままだ。

(勇気を出せ、梢)

 自分をしかりつける。

 他の人が知らない相模君の顔を、もっと見たい。

 その一心で、私は名前を呼んだ。

 

「相模君!」

 この瞬間、迷いは雨で流れた。