猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

虚空の旅人を読んだ!

上橋菜穂子先生の精霊の守人シリーズ・第4作でございます。
夢中になると、とことん読みたいのですが、仕事の課題をしていたりすると
なかなか読めなかったのですが、今回も読めて満足でした。

では、お品書き。

 

 

 

 

1 あらすじ


Amazonより引用》

新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが、シュガとともに向かったのは、ヤルターシ海のサンガル王国だった。新王の即位の儀に招かれたのだ。ところが、めでたいはずのお祝いの席で、新王は、傷つけられ、チャグムたちは、はからずも呪詛と陰謀の中に身を置くこととなる。

 


2 ブクログレビュー

 

《尾岡のブクログレビュー》

守り人シリーズ第4作目。にして旅人シリーズ1作目。チャグム王子視点の今作は、今までで一番のめり込んだかもしれない。
王族であること。駆け引き、外交。チャグム自身がある意味では目をそらしたいことが目白押しで。その中で、この世「サグ」と重なっているもう一つの世界、「ナユグ」を経験したチャグムが、もう一つ別の海「ナユーグル」に関わるのは必然かと。

情熱的で、血の気の多いタルサン王子をはじめ、三女サルーナと言い、バルサの出演は回想のみだけど、今まで以上に熱い物語で――。

解決ないまま、物語の幕は一応下りる。
やはり読み進めないとです!
今回も満足の1作でした!

booklog.jp

 


3 もうちょっと感想! one more!! 

 

ブクログレビューでは足りないことを含めて。
今作では、バルサもトロガイも出てこない。出てくるのは、チャグムと星読博士シュガの回想のみで。タンダに至っては、登場人物紹介からも出てこなくて。
チャグム、思い出してあげてー! と想ったのは内緒でございます(笑)


サグ(この世界)とナユグ(この世ならざる世界)を経験したチャグムが
今度は、ナユグールに誘われた(ナユグール・ライタの目)少女・エーシャナを巡り、サンガル王国にて新王即位ノ儀の中、否応なしに巻き込まれていくという――この物語展開はさすがでした。

 

ページをめくるのももどかしいくらいに、物語が矢継ぎ早に展開していくのでした。

 

今作で特に印象的なのが、熱血と言ってもいい第2王子、次男のタルサン王子と、チャグムの対比ではないかと思います。

 

己に、国に、そして島や海や兵に誇りを抱くタルサン王子。
逆に、世間知らずなまでに囲われて育ったチャグム。しかし精霊の守人で語られた、バルサ達の出会いが、為政者――王たる道を進むしか無いチャグムに、大きな成長を見せ。絹にくるまれた王子ではないことを印象づける、二人の接触は鳥肌ものです。

 

この作品でも、語り出せばキリがないほど、様々な魅力に溢れていますが、
まずはきらきラと輝く少年の王子の邂逅と、そこから衝突しながら結んでいく、青臭いまでの友情でしょうか。

 

星読博士シュガの気持ちが痛いほど分かります。
今作で、なんてオトナの情けないことか。
シュガは、チャグムを守るため、国の威信を守るため、苦心をします。
オトナならそうすると思う。

 

様々な陰謀、回避できない現実、建前。
オトナなら、安全な道を選ぶ。
まして政治の道、外交の道ならば、必要最低限の犠牲で役目を担えるならば、
犠牲を有効投資と考えるかもしれない。

 

でもね、チャグムは本作の中でこう言うんですよね。
これが、僕も本当に突き刺さる。

 

「おまえがなにか陰謀に気付いたとき、わたしをまもるためにその真相を決して隠すようなことはせぬと約束してくれ。……陰謀の存在を知りながら、だれかを見殺しにするようなことを、けっして、わたしにさせるな」

 


なんて力強く、意志がこめられて
かつ、青い言霊なんでしょうかと、僕は思ってしまいました。
おさない、という単語も、本編の中では何回か出てきます。

 

おさなく。
青く。
まっすぐで。

 

オトナは打算にまみれて勝負をしようとします。
まっすぐさだけでは、決して外交も仕事も社会も成立しないのです。

 

そんなことは宮廷という場所を知り尽くしたチャグムが誰よりも知っていて、
でも、ある意味では知らなくて。

 

その中で、本当の意味で知ることになる。
それが友を送り出した瞬間で。

 

チャグムが思った「虚空の旅人」の意味を
是非に一緒に、見届けて欲しい。

 

オトナの打算が思うとおりにいかないことが、
これほどに痛快とは。

 

真っ直ぐさを忘れると言うことは、
人を駒のようにしか見られないということなのかもしれません。


虚空の旅人になりたい。
今からでも遅くはないと、諦めない心を
チャグムとタルサン王子が、今回、教えてくれたのでした。