金木君と水原先輩が、ただただ食べるだけの話し
「ラーメンってさ、初めて入った店で何を食べる?」
茜さんは、いつも何を言ってくるか予想外で、今回も僕は面食らってしまう。
「え? 気分じゃないんですか?」
「わかってないね。醤油ラーメンだよ。王道のラーメンを食べてこそ、その店のレベルが分かるってもんじゃない?」
「でも水原先輩は、塩豚骨ですよね」
「君が、醤油ラーメンを頼んだからね。同じじゃ芸がないでしょ?」
「へい、おまち」
「じゃ、食べようか」
茜さんはニンマリと笑んで、手を合わす。二人そろって、いただきますを唱和して、僕らはラーメンをすすった。出汁がよくきいていて、本当に美味しい。茜さんは猫舌なので、レンゲに乗せながらゆっくりだ。急かさないように気をつけながら、僕も麺を啜っていく。と、水原先輩と目が合う。
「ん?」
「金木君も、塩とんこつ食べたい?」
無邪気な微笑みで、レンゲを差し出す。
「え?」
「食べてみたら?」
迷い無く言う。水原先輩に翻弄されるの毎回だが、これは少し人をからかうにしては暴走しすぎじゃないだうか? 食べてくれることを期待してやまない眼差しに、僕は決心してレンゲに口を付ける。お返しとばかりに、僕の醤油ラーメンをレンゲに乗せて、水原先輩に差し出した。
先輩は目をパチクリさせた。
「醤油ラーメンも美味しいですよ?」
「あ、え、う、うん。あ、ありがとう――」
先輩、そこでなんで顔を赤くさせるんですか?
いや、あの。非常に気まずいんですけど?
そう思っていると、水原先輩がレンゲに口をつける。
「おいしいね」
顔を赤くさせながら、でもニッコリ笑む。きっとお互いの顔が熱いのは、ラーメンの熱気のせいなんだと思いながら――。