猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

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本音が漏れる

ガラにもないなって、思うけれど。今日の気分に合わせてチョイスをしようとして――手が止まる。 どうしたら、あの先輩は喜んでくれるだろうか、とか。目一杯、背伸びして可愛いねって言ってもらいたいとか、そんな欲ばかり溢れてきて。でも、あの人はきっと、…

夕焼けの魔法

勇気を出した。その結果――今日があるんだけれど。ため息が自然と漏れたことに気付いて、唇を噛みしめた。今日はもう終わる。デートはこれでお終い。 後輩の彼は、人気があって。先輩の私は地味で。正直、どうして私を選んでくれたのか、よく分からない。彼が…

単純な推理では得られない結果なのだよ、探偵君。

優秀な遺伝子を組み合わせ製造された名探偵シャーリー・ホームズに、今僕は冷たい目で一瞥されていた。そうか、容疑者はシャーリーにこんな目で追い詰められたら、どんな犯人も窮する。愛らしい少女の姿は、作為的設計なのだ。「ジョン。目が泳いでいるよ?…

未来への架け橋

300字SS「未来への架け橋」 「この橋を工事する時は大変だったよ」 老婆は目を細めて言う。大河に橋をかけるなど狂気の沙汰と、誰もが否定した。だが時の王子は、断固決断したのだ。 橋がなければ、渡し船が今でも続いていただろう。ただし、岩礁が多く船…

マスターキー

危険な橋を渡っているのは分かっている。このシステムはセキュリティーが万全で。表層にログインすることはそんなに難しくないが、そこから深層にダイブしていこうとすれば、真実の鍵――マスターキーワードが必要になってくる。 どうしてそこまで一生懸命にな…

扉の向こうのタカラモノ

この鍵で間違いない。深夜の宝物庫と言われこその場所に、記録上到達した者はいない。近衛騎士の彼女がこの真相を解明したいと言い出したのが始まりだった。その宝物庫にたどり着いた者は、神々の祝福を受けると言う。彼女がどんな祝福を夢見たのかはさてお…

書簡

言葉を書き記す。最初はただの余興、回顧録のつもりだった。言葉で、過ぎた過去を、事実を振り返りながら無造作に書いて。ごく当たり前のこと、ごく当たり前の事実、それだけのはずなのに、不思議と忘れていたことまで思い出して。通り過ぎた風景、誰かの横…

母の日に

正直、こんなプレゼントをもらえるなんて思っていなかっただけに面食らう。どう言葉にしていいのか分からないのだ。 親としては、最悪なんだと思う。 私はこの子を愛せない。そうインプットされてきたし、命令(コード)で示されてきた。そうプログラミング…

鞄の中の魔法

魔術師の数は多いが、王家付はたった一人。完全な実力主義で今代は王子と同じ年の16歳。才能、そして自身の努力勝ち得た彼女に大衆は羨望の眼差しを向ける。 そんな彼女が、絶えず離さない黒革の鞄があった。閣議でも、儀式の時も肌身離さない鞄に向け、噂…

余の顔を見忘れたか?

「余の顔を見忘れたか?」 燐と響く。帝は神にも等しく、その神は自分の写し絵として帝を創った。だが今世ではその伝承すらも忘れられて、忘却の彼方だ。 彼女は目をパチクリさせ、首を横に振る。 「ごめんなさい」 と。まぁ想定内である。神である帝と龍の…

これは余っただけなんだ、本当なんだ

これはたくさん作りすぎただけなんだ。何度目かの言葉を口にして。まるで自分に言い訳しているみたいで。彼と一緒にお昼ご飯を食べたい。それだけのことなのに、大人げなくはしゃいで――今になって、冷静になった。 手作り弁当なんて、重たすぎるじゃないか。…

お腹が空いたよ、まだですか?

手をかける。その手を惜しまない。今頃、ちょっと店に行けば手頃なランチを食べることができる。冷凍食品だって主婦の強い味方だ。 それでいいんじゃないかって思うのに、許してくれないんだよね。 ――手作り餃子が食べた・い・の! そうですか、そうですか。…

託宣

厳粛な儀式の中、神は聖女のもとに降りてくる。神卸の儀式である。神託を得て、国主へ託宣を送る。敬虔な信仰がこの国を支えてきたのは間違いない。 神が降りる瞬間には、光が乱舞し、虹が聖女を中心に煌めいては駆け巡る。 ――あぁ儂や。ほら王子がおるやろ…

君に告げる

手遅れってこういうことなんだな、と目を閉じる。お祝いの言葉を本当は送るべきなのに、言葉が出てこない。頭が真っ白になるとは、こういう時に使う言葉なのか。だから振り絞って、君に「おめでとう」って言った。君は怪訝そうな表情を浮かべて。よく見たら…

むこうがわ

天井に小さな窓が一つ。何年、ここに閉じ込められているのかも忘れてしまった。人間につかまったのが運の尽きだったと思う。寿命が長い翼人族にとっては、苦痛でしかない。 羽根を広げることにも苦労する狭さで。なびかない少女にしびれをきらした貴族は、そ…

ずっと夢見てた

大切なことは全部諦めてきた。働け。そして稼げ。そんな時代にどうして恋を語ることができようか。老いてしまったことなら知っている。だが時々どうしてか、初恋をしていたあの時に何度も戻る。 この手は、シワクチャなのに。 あの人は、あの時のままで微笑…

うたた寝

宿主が起きていれば、こちらは眠る。だがずっと寝ている訳ではないので、朦朧とした意識の中で、宿主が泣いているのはよく見ていた。心ない言葉が、宿主を突き刺す。その度に隠れて泣くのが彼女だった。 何回か、宿主の意識を奪って、妾が灼いてやった。人を…

この時間だけ演じれば

社交界なんて興味もないが、王家が主催するパーティーとなれば参加しない訳にもいかない。どうせ私みたいな女に声をかける紳士なんているはずが――。「僕と一曲踊ってくれないかな?」 声をかけてきたのは王子で。彼曰く、色目を使う淑女に食傷気味らしい。私…

旅の果の景色を

旅人が集う交易街の人の多さに驚く君に苦笑する。私達は商人の装いだ。誰が第一王子と、その近衛騎士と思うだろうか。君は、町々の状況を知りたがる。人口、税収、交易からの経済実態。さらに君は交易の中からの、住人や商人、旅人達のリアルな情報を望んだ…

あなたにあいたい

運命の出会いなんてない。私たちは漫然と日々の生活をこなす。昨日から今日、明日へ淡々とつながる。好きな人ができたら、それはそれでいいけれど、きっとそんな絵に描いたようなトキメキなんかやってこない。無感動のまま、私たちは頁の始まりから、頁の終…

君が隣りにいることについて

居心地が良くて。なんだか言葉を交わすだけで、染みこんで。当たり前に言葉を掛け合って。これが気が合うということなんだろうか。 君が言葉をかけてくれること、それが嬉しくて。もっと言葉が欲しくなる。その感情の意味を考えたこともなかった。 ――君が、…

生命の水

水が滴る。滴が落ちる。その瞬間を正視できたのも、ほんの刹那で。直視すらできない、激痛が俺を襲った。「意識がまだあるか?」 白衣の男は、興味深そうにデータの変化を追いかける。 体が内側から灼け、激痛が体の中を駆け巡る。その様を尻目に、男はさら…

ハーフタイム

先輩のシュートが、ネットを揺らす。ホイッスルがけたましく鳴った。バスケットボールが、バウンドするとともに歓声が上がる。 ハーフタイムに入って、みんなが駆け寄る。マネージャーの子達が、スポーツドリンクを手渡そうとするが、先輩は汗を拭きながら、…

指が音を求めるけれど

かつてロックシーンを彩っていた時期もあったが、すっかり音楽業界に嫌気がさし、今や高校教師に返り咲いている。 あれほど嫌いになった音楽なのに、残業していると、ギターを触りたくなる時がある。音楽室の防音設備なら聞かれることもない。聞かれたところ…

乱舞

モニターから見ていた世界が全てだった。ラボでは全てが管理される。あてがわれた部屋には窓すらなくて。 繰り返される実験。私の手のひらの上で、煌々と燃える火炎。上手に壊したら、お父さんが喜んでくれた。 ある日――実験で一緒だった子が、私の手を引い…

慟哭

あの人はきっと私が死んでも涙を流さない。 感情を流すには、私たちは長く生きすぎた。エルフと龍人、ともに長命の種だ。エルフは自然と共にあり、龍人は本能のままに血を求める。 惹かれたのは――きっとお互いの同情から。 彼は失ってばかりで。そして私は奪…

そんな薬があれば

シャープペンシルで文字を綴りながら、ひなたはチラッと爽を見やる。「人見知りをしない薬があればいいのにね」 そうひなたは言う。一部の人に対して素直になれるのに、それ以外では言葉にならない。その一方で、目の前の爽にならこうも素直になれる。 と爽…

空が欲しい

頬杖をついて、僕はぼんやりと城下を見やる。目を盗んでは抜け出して、束の間の自由を楽しんだ日々。それすら籠の中の鳥だった、と今なら思う。 はるか彼方、地平線。その向こう側まで、行けたら――。 「なに、考えこんでるの?」 さりげなく彼女は紅茶を淹れ…

ニンギョウ王子

許嫁たる王子が贈った人形を大切にしていた。 もともと政略結婚以外の何ものでもない。 王は、姫を嫁がせるつもりはなかった。 そしてかの国は、同盟国として派兵を余儀なくされ――壁となって、潰えた。 ――この人形があなたを守るだろう、ボクの代わりに。 今…

血なんかかよってない

人形と揶揄されたこともある。 そもそも、ニンゲンとして扱われたこともない。 味覚はない。感覚もデータ検知するが、君たちが言うような、触れ合いも温度も、感情すら人工物だ。そうプログラムされたから、その通りに判断する。ただ、それだけのこと――と息…