猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

命の氷

 

 男は氷をノミで削るという作業を繰り返す。雪の女王からようやく下賜された【命の氷】だ。
 匠であることの証。芸術をこよなく愛する雪の女王が、本当に認めた匠にしか譲らない。男はその腕で、氷の宮殿を作り上げた。
 女王はお喜びだ、と文官はご丁寧に報告をくれたが、それもどうでもいい。
 彼女が命を吹き返せば、それは何よりも価値がある。
 彼はノミを振るう。彼女の表情を、笑顔を思い返して。


「愚かよのぉ」
 雪の女王は、新しい女王の髪を撫でる。氷柱でできた髪は梳くこともできない。美しき造形は命が宿る。だが人の感情が入り込む余地など無い。あるはずが無いのだ。
 新しい女王の指先は真紅に滴って――。

 

 

 

 

 

 

 

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