猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

悲しくない/雨フラシ

【悲しくない】

 悲しい言葉なら慣れている。いちいち反応する必要なんかない。ただ、この感情だけ抑えたらいい。昂ぶったら、その瞬間に誰かを傷つける。だから、我慢をしてきたし、人の言葉に無頓着に生きてきた。関わらなければ、最初から摩擦もない。
 ほんの少し感情が揺らいだら――火種が炎になって、溜め込んだ感情が破裂する。感情なんかとっくの昔に枯らしたと思ったのに。
 でも暖かい言葉には慣れていなかった。不覚にも。
 貴方は困った顔をする。私も困っている。でも止まらないのだ。この感情が。
 ――悲しいだけが、涙の意味じゃないからね。
 貴方は、またそんなことを言う。
 感情が止まらない。
 これは全部、貴方のせいなんだから。

 

 

【雨フラシ】

「放っておいて」
 絞り出すような声で、彼女は言う。雨が打ち付ける中、傘もささず立ち尽くす。
 親友と彼女は別れた。そりゃ男と女だ。僕の分からない事も色々あったと思うし、映画のようにハッピーエンドにはならない。それに僕には何もできない。
 せめて傘をさせたらと思うのだが、僕は傘をもつこともかなわない。
 初恋の君よ。僕は先に旅立ったが、未だ君に縛られてこの世から旅立てない。その手に触れて、君を慰められたらいいのに、僕にできることは雨を降らすことぐらいで。
 こんなに近くにいるし、昔から想いも変わらないのに。
 ねぇ君。
 雨で涙をそそぐくらいしかできないけれど――君が幸せになるその日まで、傍にいさせて?

 

 

 

 

 

第51回Twitter300字SS参加作品

テーマ「涙」でした。

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと余談。

実は「悲しくない」の方はベースは、拙作「限りなく水色に近い緋色」でした。でも、その作品の背景を匂わせないように、できるだけ書くというのが、殴り描き時のテーマでした(笑)

 

「雨フラシ」は完全オリジナル。涙を隠す雨ってのをテーマに書いて見たいと思ったんだけど、どうかしら? とか思いながら。

 

今回も参加ができました。ありがとうございました。