猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

二年を跨ぐ

 


 寒くて、手がかじかむ。こんなことなら手袋を持って来れば良かった、と思う。でも、それを通り越すぐらい、みんなと一緒の新年は暖かかった。

 大晦日の夜からお参りする事を「二年参り」という。言葉自身は聞いたことがあったが、いざこうやって自分がしていると思うと、ドキドキが止まらない。

 何のことはない。やることと言ったら、新年を跨ぐ、その数分だけの為に夜更かしをする。妙にみんな浮かれた顔をして、知らない人と一緒につられてしまう。

 なんて単純なんだろう、と思いながら。

 と、隣にいつもいてくれる彼が、手を引き寄せて自分のコートのポケットへその手を入れた、一瞬。刹那、息をついたほんの少しと、瞬きするような間に。

 花火が打ち上がり、太鼓を打ち鳴らす。

「happy new year!」

 誰となく、連呼して。
 一年をまたいで、次の一年へ。時計が刻むのはほんの数分。それを二年参りと言うのは、なんて大袈裟何だろうと思っていたけど――。

「ひなた」

 名前を囁かれて、耳が熱い。この喧騒の中で、しっかりと彼の声が聞こえていた。

「今年もよろしく」
「こ、こちらこそ、爽君……」
「あ、先輩、二人の世界入ってるー」

 割り込む声が、この場所では二人だけでいられないのは当然で。

「入ってないし」
「水原君って、こんなに積極的だったんだね、へぇ」
「意味わからないし」
「宗方さんが顔を真っ赤にしているのは、甘酒?」
「姉さん、ひなたに絡むな」
「そろそろ、俺もひなちゃんと仲良くなる時間もらおうかな」
「涼太、あるわけないだろ?」

 どんなに言われても、コートの中の手は離れなくて。
 今年も良い一年でありますように、とはなんて強欲なんだろう。みんなが一緒で、こんなにも幸せなのに、さらに幸せを望むだなんて。きっと、神様も呆れてる。
 でも――。

「せーの!」

 と声が上がって

「あけまして、おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「あけおめっ!」
「桑島、だからお前は日本語を正しく――」
「はぴいやー!」
「だから!」

 魔法の言葉のように重なって。

 神様に呆れられても。

 この時間が大切なんです、神様。強欲と思われても、欲張りと思われても。

 ひなたは弾けるように、笑いが止まらない。
 それはみんなも一緒で。
 それでもその手を離さない――。

 

 

――――――――――――――――――――

 

最近、ブログの使い方がSSの書き置き場になってますが、

改めまして、あけましておめでとうございます。

「限りなく水色に近い緋色」より、ひなた、爽、ゆかり、茜、彩子、涼太でお送りしました。

書いておきたかったので、書けて幸せ。本編はまだ、ここまで距離が近くないひなたですが、その手を離さないぐらい積極的な日向は、もう少し先でしょうか。

 

何はともあれ、このブログ共々、今年もよろしくお願いいたします!

葛湯・チラシ・電気

 

葛湯と葛根を間違えた(笑)

まぁ、ご愛嬌で。

小説妖精ノベルちゃん様(?)

ありがとうございました!

 

甘露

 

 ここは桃の花が咲き乱れる。甘く、芳しく。その中で、男性器も女性器も持たない、裸の【彼女】が横たわる。
 仙人ともなれば、性別も表情も失われることは当然ながら、命の重さも軽くなる。仙術を志す、感情を残した生き物たちを見やりながら。
 桃の園は、その甘い香りに秘術を匿す。
 ここにいる誰もが、【甘露】を――命の粒を追い求めている。このうちの何人が、仙人として桃の園に残ることができるのだろうか。
 仙人は、知識を生き移す。海のような空を見やりながら、昔は【彼女】と認識されていた仙人は思いふける。
 この中の何人が、仙人として生き残られるか。
 誘惑にも等しい桃の香りは、虚構を彩る。だって、【甘露】は仙人になれなかったなれの果て。
 永遠を生きる仙人は、仙人の命で食いつなぐ。
 昨日食したあの子は、極上の美味であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな流れで、即興でできたショートショートでした。

本当に即興で申し訳ない。

 

 

 

薬園台トヲル様、ありがとうございました!

火焔の少女

 研究サンプルとして生まれた私の能力は発火能力(パイロキネシス)だった。当時の私は、力の制御ができず感情的になると、すぐに炎が燃え上がった。

 だから決めたのだ、怒らない、泣かない、喜ばないと。
 だって私が、貴方を焼いてしまったのだから。

「まだ、そんなことを思ってるの?」

 彼は変わらない顔で、微笑む。暖かい炎に薪を加えながら、火を囲むみんなの顔が笑顔で。

 どうして、そんな顔をするの? 私が貴方を焼いたのに。

「そんなの、ひなたが大切だからに決まってるじゃん」

 恥ずかしげもなく言う。
 でも――私をライター代わりにしていい理由にならない。

「怒るなって、ごめん」

 ゆ・る・さ・な・い!

 

 

 

拙作、限りなく水色に近い緋色のひなたと爽から。

お題「火・炎」で思いついたのがこれでした。

クオリティー?

え? なにそれ、美味しいの?

今回は遅刻でしたので、これでご容赦を!

最後の吸血鬼

 


 それは汚れをなにひとつ許さない、絹のドレスを纏った少女の肖像画だった。表情は硬く、笑むことなく、むしろ瞳孔は見開かれて。愛らしさと恐れが入り混じって、違和感しかなく、私は思わす立ち止まった。
 時計が鐘を打ち鳴らし、時刻を告げる。
 周りには誰もいない。
 表題は「最後の吸血鬼」
 あまりにも可憐な少女に、それは似合わないと思ってしまった。
 と――白い腕が、ドレスが、花の香りが、私の腕を掴む。
(え?)
 刹那でドレスを着せられた私と、パンツスーツを着た、絵のなかの少女が入れ替わって。
 ありがとうね。
 絵の前で、少女は嗤った。
 300年は長かったけど、ようやく私、血が吸えるわ。
 

 

twitter300字SS参加作品。

 

 

 

吸血鬼好きだなー、おいら(笑)

スケッチブック・無自覚・ラブレター

 

 スケッチブックに想いのままにクレパスで彩る。何を描こうなんて、特に考えていない。時には猫だったり、甲冑の騎士だったり、男の子だったりする。いつも、一人でいる時は絵本に想いを馳せていた。
「ふーん」
 と覗き込んだトモダチが言う。心の準備なく、自分の絵を見られるのは、何だかくすぐったい。
「ひなたが描く男の子ってさ、水原君にそっくりだよね」
 言われて、え? と思う。そう思った瞬間に顔が熱い。慌てて、スケッチブックを閉める。
「ま、た上手くなったらみせる、から、見せるから!」
 言葉になっていないが、それどころじゃない。


「いい加減、自覚しなって」
 苦笑いされても、その声すら届かない。

 

twitter300字SS参加作品です。

 

 

#Twitter300字ss 「宴」

 

 淡い光の下で、初めて境界線は崩れ落ちる。月は満たされ、儚い灯りに照らされて、この世界は初めて孤独でないことを知る。
 笛が物悲しく、泣く。その音色に身を任せながら、彼女は盃に手を取り小さく舞うのだ。
「悪くはないな、この国の儀式は」
 彼女は僕の首に唇を寄せる。陶磁器のように白く、冷たい手に添えられながら。
「だが酒より、お前がいい」
 この神社には吸血鬼が祀られている。
「血が目的のくせに」
 会いたかったはずなのについ言ってしまう。
「目的なら、お前だ」
 酔った勢いのくせにと、悪態を返しながら。首に甘く食い込む牙が甘美だ。それ以上に言葉が甘ったるい。
 また人身御供の僕は生かされて――

 

#Twitter300字ss 参加作品。お題は「月」です。遅まきながら遅刻参加!