猫の尻尾亭

尾岡レキが創作の事や読書感想を殴り書きするだけのブログです。アイラブ300字SS!

何気ない休日に

 

 私が作ったクッキーを、あなたは頬張る。何回も手が伸びるのは、きっと美味しい証拠なんだろうって勝手に思ってる。
 分かりやすいアクション映画。お約束のロマンス。こんな風に想えたら――と思っていたら、あなたがそっと私を抱き寄せた。
 この瞬間が幸せ――なんて思っていると携帯電話が鳴る。
 後ろ向きな感情ばかりが蠢いて、手がのびない。
「仕事の電話でしょ?」
 とあなたが無情に言う。ため息をついて渋々出た。
「先生、ごめんなさい! でも急患が、急患が!」
「落ち着いて、今行くから。状況は?」
 仕事に切り替えた私に、あなたはそっと囁いた。
 ――おいしいご飯作って待ってるからね。
 何時に帰られるか分からないけれど。
 私は大きく頷いた。

 

 

 

 

 

と言うことで、第35回twitter300字SS参加作品

お題は「休」でした。

うん、休めてない、女医先生。いつか報われる日がありますように!

あなたに渡したいものがあるのに

 

 丁寧に包み込まれた貢物は、過剰な想いがこめられているのを実感する。
 送り主は、どれ程の気持ちをこめて贈答しようとしたのか。包装に触れるだけで、電流が走るのを感じる。
 美しい金糸に織り込んだ感情は溢れんばかりの――嫉妬で。
「呪いの解除が完了しました」
 その瞬間、火の粉が舞い、激しく燃え上がった。

 

 

 

 


「君は寄せられる感情をもう少し疑うべきだと思うよ」
「無下に断るわけにも行かないだろ?」
 そんなやり取りを聞きながら、宮廷魔術師は小さく息をつく。近衛騎士たる彼女を陛下は寵愛しているのは見るに明らかで。貴族達が面白い訳がない。
(私だってそうなんですよ?)
 昔から慕っていても、陛下にこの想いは届かない。

 

 

 

 

ということで、恒例の300字SS参加作品です。

今回は「渡す」ということで。

以前、書いた「未来を彩る飾り付けを」で書いた

陛下と騎士ちゃんのその後というか、まぁそんな感じで。

鈍感も度を越すと、罪でしかないということで(笑)

 

なかなか他の方の作品を読めてないので、今回は読むぞ、と誓いを新たに。

他の方の作品を楽しみに読むのです。

ではでは。

 

君に告げたら終わり

 実田梢は臆病だ。こんなに臆病だと思わなかった。同じクラスになって三ヶ月。梢が気になりだしてから、4年3ヶ月もたってしまった。

 本が好きな相模君は、暇があれば本を読んでいた。相模君は人付き合いが悪い。愛想もない。でも梢は知っている。彼は、友達がいないんじゃない。友達を作る余裕がない。

 保育園に弟と妹を迎えに行く。夕食の準備をする。

 中学生の頃から、彼は嫌な顔せずそれをしてきた。

 偶然見かけて、それが目から離れず、今まで来ている。弟と妹に見せる笑顔と、学校で見せる無表情の差があまりにありすぎた。

 そんな相模君が、雨で立ち往生をしている。

 私は傘がある。彼は傘がない。

 でも何か言ったら、この恋は終わってしまう。

 その実感はあった。

 でも、何にもしなければ――ずっと、このままだ。

(勇気を出せ、梢)

 自分をしかりつける。

 他の人が知らない相模君の顔を、もっと見たい。

 その一心で、私は名前を呼んだ。

 

「相模君!」

 この瞬間、迷いは雨で流れた。

 

 

仲良くなる方法

 雨が激しく打ち付ける。しまった、と思った。天気予報は見事に的中し、傘をすっかり忘れてきた自分が恨めしい。
 どうしようもなく、正面玄関で立ちすくむ。
 スカスカの傘立てを見る。唯一残っていたのは、同じクラスの実田の傘で。誰にも優しくて、成績もトップから数えた方が早い。明らかに、僕と住んでいる世界が違う。
 彼女が入れてくれるはずもないので、ダッシュで帰るしかないと覚悟を――と思った瞬間、名前を呼ばれた。


 実田が隣で、無邪気に喋っている。僕は現実感なく、彼女が濡れないように傘をさしている。やっぱり優しいね、と僕が言うと、実田がニッコリ笑んだ。
「ずるいと思うよ? 仲良くなる方法、ずっと考えていたから、ね?」

 

 

 

 

 

Twitter300字SS参加作品。テーマ「かさ」でした。

直線ストレート。

したたかな女の子大好きです。

実田ちゃんは、独占欲強くて、実は小悪魔をイメージしたのでした。

恋は盲目ですからね。

 

ではでは。

君の色

「どの色がいいかなぁ」
 ニコニコ顔で言う。憧れていた先輩とのデートらしいが、デートで着る服の相談ぐらい、女子としろと思う。
 そう言うと、男子視点での評価が欲しいからよ、と楽し気に笑う。
 思わず僕が指をさしたのは真っ白なワンピースで。
「へぇ、こういうのが好みなんだね」
 好みも何も、君が好きな色だから。
「デート楽しんでおいで」
 我ながら作り笑いが上手くなったと思う。

 


 真っ白なワンピースを着た彼女が目の前にいて唖然とする。
「デートは?」
「片思いの人がね、気を引いても、一向に鈍感な人だったからね、しびれを切らしたのでした」
 ニッコリ笑って、僕の言葉を待つつもりらしい。
 答えも何も――ずっと前から、君色に染まっている。

 

 

 

と言うことで、Twitter300字SS参加作品でした。

久々に、恋愛もの純度100%で。

ではでは。

 

全ての災厄を

 一想いに、呪符を破り捨てる。この里には、全ての災厄を封じると口伝だけが残る。
 愚かと思うが、この手は止まらない。
 禁書となった魔術書を漁る為だけに、国は私たちを捨てたのだ。
 呪符は繭のように、神木からぶら下がって。
 躊躇わず、散り散りに呪符を破り捨てる。
 裂け目から紅い目が覗き混み――。
 きゅんとそれは鳴いた。

「きゅん?」

 龍の赤ん坊が、尾を振るのが見え――私は目をパチクリさせた。




 龍の背に身を任せ、大空から見下ろす。私の里が全ての災厄を封じる神龍が眠る地と聞いたのは、つい最近のこと。

『どうせなら、全ての災厄を払おうじゃないか』

 君がそう言うから――是も非もない。

 

 

 

 

 

 

 

と言うことで、恒例のtwitter300字SS参加作品でした。

まだ時間があると思っていたら、あっという間の1週間。今回は余裕がないので、この作品だけ。やや不消化でありますが、お楽しみいただけたら幸いです。

未来を彩る飾り付けを

 

 腫れ物を触るように扱われていた。傀儡の王子だ、情勢が変われば暗殺される。
 だから――命を晒すことも厭わずに、市井に出た。案の定、賊が金目当てに取り囲む。きっと、パンをあげた子が僕を売ったのだ。


(のぞむところだ)

 と目を閉じると――鋼が衝突する音がして。

(え?)

 目をこする。
「パンの恩義に応えなくちゃね」
 と細身の剣で、全ての剣を受け止めた少女は小さく笑んだ。

 

 

 

「パン一つで遠いところまで来ちゃったかな」
 と彼女は言う。彼女は白金の鎧を、僕は正装で王位継承の儀に挑む。着飾ることは辟易するが、未来を彩る飾り付けは王子にしかできないと君が言った。

 その言葉に生かされた――。


(だから、望むところだ)

 

 

 

 

 

 

と言うことでTwitter300字SS参加作品でした!